プロジェクトの成功と失敗

「プロジェクト 失敗」でGoogle検索すると約 26,900,000 件( 2023年1月現在) の検索結果が得られる。世の中のプロジェクトはそんなに失敗しているのろうか。そもそも、プロジェクトの成功と失敗とは何なのか。一般的によく参照される資料とデータを用いて確認していくこととする。

PMBOKガイドにおける、プロジェクトの成功とは?

PMBOKガイド(第7版)には、究極的なプロジェクト成功指標、並びにプロジェクト/プロダクトの成功をどう測定すべきかの要約が記載されている。なお、プロジェクト/プロダクト自体の定義は「プロジェクトとプロダクトの関係」でも紹介済である。

PMBOK:究極的なプロジェクト成功指標

「究極的な指標」は、プロジェクトマネジメントの12の原理・原則(第3章)のひとつ「価値に焦点を当てること(3.4)」に以下のような説明がある。

価値はプロジェクト成功の究極の指標である。

価値は、顧客やエンド・ユーザーの始点からの成果を含め、究極の成功指標でありプロジェクトの推進要素である。価値は成果物の成果に焦点を当てる。プロジェクトの価値は、スポンサー組織または価値を受け取る組織への財務的貢献として評されることがある。価値は、達成された公共の利益の大きさとして評価されることもあり、たとえば、プロジェクトの結果から得られた社会的ベネフィットや顧客が認識したベネフィットである。

以前「ITプロジェクトの各プロセスとは」で説明した「システム開発を含む、ビジネスのプロセスの例」図とあわせると以下のように理解できる。

a simple flow image of processes to make a system

この中で最上位の「成果物」は、ニーズをくみ取って抽出された課題(①②)に適合する「システム開発ソリューション」だ。PMBOKガイドは「価値は成果物の成果に焦点を当てる」と説明しているので、⑤移行・運用/保守によってニーズがどのように、どれだけ満たされたか(=満足度)が、最上位の「究極的なプロジェクトの成功指標」だと考えられる。「満足度」をどのように計測するかについては、ビジネス要件の中でKPI/KGIとして明らかに定義するのが良いだろう。

PMBOKガイド付属文書「X4:プロダクト」には、以下のような表で成功の測定方法について言及がある。

特性 プロジェクト プロダクト
所要期間 短期的、有期的 長期的
スコープ 目標を(事前に)定義する。スコープはライフサイクル全体にわたって段階的に詳細化される プロダクトは顧客重視およびベネフィット重視の中で決定される
成功 プロダクトとプロジェクトの品質、スケジュール、予算、顧客満足、意図された成果の達成により測定される 意図されたベネフィットを提供できる能力と継続的な資金提供の実行可能性により測定される

※表: PMBOKガイド付属文書「表X4-2:プログラム、プロジェクトおよびプロダクトの固有の特性」より独自作成

PMBOKガイドでは「成功の定義をスコープ、スケジュール、予算目標の達成などとしてきた見方は、プロジェクトの価値と成果(アウトプットではない)の測定へと変わってきている。」と説明があるが、にもかかわらずプロジェクトの成功は「品質、スケジュール、予算、顧客満足、意図された成果の達成により測定される」ものとされている。QCD(品質/費用/スケジュール)による測定は「古い考え方」になってきているが、依然、測定指標のひとつとしてQCDを用いるのが良いとされている。

QCDで測る、IT開発プロジェクトの成功と失敗

それでは、QCDを尺度とした、IT開発プロジェクトの成功と失敗についての状況を、日本国内、及び国外(アメリカ)の2極からみてみよう。

日本国内の状況

大手企業 1146 社 のIT投資・活用の最新動向をまとめた「企業IT動向調査報告書 2021( https://juas.or.jp/cms/media/2021/04/JUAS_IT2021.pdf
)」は、一般社団法人・日本情報システム・ユーザ協会(JUAS)は、IT開発の状況を把握するための便利な情報を無償で提供している。第7章「IT基盤・システム開発」で、システム開発における品質満足度・予算・工期(QCD)についてのアンケート結果が掲載されている。

以下の3つの図は、上から「品質満足度」「予算遵守状況」「工期遵守状況」のグラフである。それぞれ、開発規模別(100人月未満/100〜500人月未満/500人月以上)の、2017年〜2020年別で表している。著者により青枠で囲んだ部分は、2020年について規模別のグラフを強調したものである。

一般社団法人・日本情報システム・ユーザ協会(JUAS)は、IT開発の状況に関するレポート「企業IT動向調査報告書 2021」を発行している。このレポートは、、大手企業 1146 社 から収集されたアンケート結果に基づいて編集されている。その第7章「IT基盤・システム開発」で、システム開発における品質満足度・予算・工期(QCD)についてのアンケート結果が掲載されている。

以下の3つの図は、上から「品質満足度」「予算遵守状況」「工期遵守状況」のグラフである。それぞれ、開発規模別(100人月未満/100〜500人月未満/500人月以上)の、2017年〜2020年別で表している。著者により青枠で囲んだ部分は、2020年について規模別のグラフを強調したものである。

satisfied with project

keepingt to  project schedule

sticki to project budget

3つの図を考察すると、開発規模が大きくなればなるほど、ネガティブな結果となることが解る。

100人月未満の開発規模について言えば、品質満足度について91.5%が「満足/ある程度は満足」とポジティブな結果となっている。予算遵守状況についても90.6%が「予定通り完了/ある程度は予定通り完了」となっており、工期遵守状況も82.5%が「予定通り完了/ある程度は予定通り完了」となっている。

逆に500人月以上の場合、品質満足度が「満足/ある程度は満足」の値は74.4%(対100人月未満比:-17.1%)、予算遵守状況が「予定通り完了/ある程度は予定通り完了」は58.9%(比:-31.7%)、工期遵守状況が「予定通り完了/ある程度は予定通り完了」は49.4%(比:-33.1%)となっている。

ポジティブを「成功」、ネガティブを「失敗」と置き換えると、プロジェクトの成功確率は開発規模が小さいほど高くなると言える。

昨今、アジャイル開発やマイクロサービスに注目が集まっているのは、開発規模を小さく維持する事がプロジェクトの成功に寄与するためだと言えよう。

アメリカの状況

GAO(Government Accountability Office:日本の会計監査院に相当する「政府説明責任局」)が2012年9月に発行した議会要請レポート「INFORMATION TECHNOLOGY:DHS Needs to Enhance Management of Cost and Schedule for Major Investments(GAO-12-904 https://www.gao.gov/products/gao-12-904 )」によれば、国土安全保障省(DHS)の主要なIT投資68件のうち、約70%(47件)はコストとスケジュールの目標を達成しているが、残り30%(21件)は目標値を10%以上超過しているという。品質の問題を考慮するまでもなく、30%のプロジェクトが失敗していたこととなる。

上記レポートを発表する前後、GAOは2010年代初頭から、いくつかの省庁がアジャイル開発アプローチでプロジェクトの成功確率を上げていることをGAOは「発見」した。そして2016年4月にアジャイル開発が「開発スケジュールの超過や、望ましい価値提供ができない」事を防止し、プロジェクトを成功に導く要因だと「特定」し、以降各省庁に対してアジャイルのリーディングプラクティスを実施するよう勧告した。2020年6月に発行した議会要請レポート「 DHS Has Made Significant Progress in Implementing Leading Practices, but Needs to Take Additional Actions( GAO-20-213 https://www.gao.gov/products/gao-20-213 」では、10の勧告についての評価を行い、必要に応じて追加措置を要請している。

2019年12月のGAOレポート「HOMELAND SECURITY ACQUISITIONS:Outcomes Have Improved but Actions Needed to Enhance Oversight of Schedule Goals(GAO-20-170SP https://www.gao.gov/products/gao-20-170sp )」では、同年8月現在でDHSの主要IT投資27件のうち約93%(25件)は目標を達成する見込みだが、約8%(2件)は、スケジュールまたはコスト目標を突破していると記載している。9月以降に見込みが変わる可能性はあるが、アジャイル開発の導入により成功確率が劇的に向上している事が見て取れる。

まとめ

  • プロジェクトの成功/失敗の究極の指標は、プロジェクトの価値と成果によって測定するのが理想だが、現実的には「QCD」による測定が現実的である
  • プロジェクト規模が大きくなればなるほど、プロジェクトの失敗確率は高くなる
  • アメリカでは、国家プロジェクトであってもアジャイルの導入が進んでおり、アジャイルの導入によってプロジェクトの成功確率は劇的に改善している

<開発プロジェクトの教科書シリーズ>

  1. プロジェクトとプロダクトの関係
  2. ITプロジェクトの各プロセスとは
  3. プロジェクトの成功と失敗